2010年10月12日火曜日

優しさの価値

Coach Gunther Cunningham.
Detroit Lions Defense Coordinator / Assist. Head Coach


通称コーチ・ガン。
この偉大な老師との出会いはライオンズの合宿練習時。

あれほど威厳と優しさを兼ね備えたコーチはこれから先出会うことはないだろう。
そして、コーチ・ガンと未だにメールで連絡を取り合っているのは、
間違いなく6人の仲間のうち僕一人。


数ある名門大学のアメフトを率い、NFLでも20年以上のキャリアを誇るコーチ・ガン。
特別な響きと重みがあった、彼の言葉の節々には。


プレシーズンゲーム、Detroit Lions vs Buffalo Bills.
試合3時間前にコーチ・ガンが、ふらっとスタジアムのトレーナールームに現れた。

フィールドや治療器具のセッティングに走り回っていた僕に、

“Hey Kei, why don’t you slow down? I need your help, if you don’t mind.”
(少し落ち着けKei。お願いが一つあるんだが。)

聞けば肩から首にかけて凄い張りを感じると。

トレーナールームにはヘッドトレーナーからチームドクター、
そうそうたるメディカルスタッフが揃う中、

“I need you to help me.”
(お前に頼んでいる。)

と。

インターンと言う立場上戸惑いを隠せない僕に
にこやかに頷いてくれたヘッドトレーナーのディーン。

コーチ・ガンとの11のセッションが始まる。
首から肩にかけてのセッション中、彼との話は多岐に渡った。

1つ、どうしても忘れられない話がある。

彼は唐突に、
Kei、お金は何のためにあると思う?

と。

名声、地位、モチベーション、生活、褒美。挙げるときりがないだろう。
俺はな、お金は人の為にあると思う。
もちろん、自分の身の安全はしっかり固める必要はある。
それ以外は、人の為。

俺はこの世界でお金を手にしたがために、不幸せになった人間を山のように見てきた。
年収3億を超えても、家族友達に試合のチケットをケチって買わない選手もいた。

悲しいと思わないか?

もちろん、お金を節約できない人間は痛い目を見る。
出世もできないだろう、自分をコントロールすらできない人間は。

でもなKei

どんなに貧しかったとしても、人を祝うことを忘れるな。
誕生日、門出、入社、出会い、帰省。なんでもそうだ。

チョコレート1つでいい。バースデーカード1通でもいい。バーに誘って乾杯でもいい。
人を大切にする人間。人を優先できる人間ほど魅力のある人はいない。

人生、そこでケチることはないと思うんだ。

と。


ほどなくセッションは終了し、
コーチ・ガンは強くハグとThank you so muchと言って
ロッカールームに姿を消した。


なぜだろう、上の世界に身を置く人たちの言葉には、
何かしらの力を感じる。

地位から来る説得力とはまた違う、
苦労と経験という名の悟りのような。


たった2カ月弱ライオンズに居座った僕相手に、
深く感謝し、律儀にメールを返信し、推薦状でも何でも書くから言ってくれ。と。


60歳を過ぎた時、僕はコーチ・ガンのことをしっかり覚えているだろうか。
そして、彼のように人の為に足を動かしているだろうか。


いや、間違いなく覚えているだろう。

彼のような人間こそが人の記憶を強烈に刺激し、
そこに生き続けるのだから。



川田圭介
Henderson State University

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