2012年5月17日木曜日

『スポーツに情熱を注ぐ人達』

Wayne State College の波多野陽介です。

アメリカでは春学期が終了し、3ヶ月以上の長い夏休みに入りました。今回のブログでは僕が履修したクラスの題材となった1人の監督を紹介させて頂きたいと思います。 以前のブログにも紹介させてもらいましたが、アメリカでスポーツを語る上で絶対に外せないトピックが大学スポーツです。特に、アメリカンフットボールと男子バスケットボールは2大スポーツと言われても過言ではないくらいです。その履修したクラスの教材として1冊の本を購入しました。

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動画(http://www.youtube.com/watch?v=n9wBQJDuCr4

ESPNというアメリカで有名なスポーツ番組があるのですが、その番組のスポーツコメンテーター且つ、アメリカ野球殿堂の投票資格も持つバスター・オルニー記者が著者の『How Lucky You Can Be』という本です。この本は、僕の大学があるネブラスカ州のWayne(ウェイン)という小さな街で育った大学バスケットボールコーチ、ドン・マイヤー氏のことについて書かれています。アメリカの大学バスケットボール界には数多くの名監督がいます。(バスケットボールに興味のある方はご存知だと思います。) 1948年から名門UCLAを率い10度のタイトルを獲得した故John Wooden氏、大学バスケットボール界で1部リーグ最多勝監督として知られていたBob Knight氏、そして今も名門Duke Universityを率い現在の1部リーグ歴代最多勝監督、アメリカ代表男子バスケットボールの監督を勤めるMike Krzyzewski監督 (通称:コーチ K)… 名前を書き出せば多くの監督が名監督としてその歴史を残しています。その他にも女子の名門テネシー大学を率い8度のタイトルを誇るPat Summitt監督も名監督の1人です。 しかし、このマイヤー氏が何を残したのか… そこを少しだけ紹介させていただきます。 マイヤー氏は1部リーグでの監督経験がありません。というよりも、本人が1部リーグでの監督という立場に違和感を感じていたからです。しかし、マイヤー氏はNCAA(全米体育大学大学)2部リーグ、そしてNAIA(小規模の大学が加盟している大学体育協会)での監督経験があり、大学男子バスケットボールの歴代最多勝記録(923勝)を今シーズンまで保持していました。(コーチKBob Knight氏が保持していた(いる)のは1部リーグのみでの記録となります) 

しかし、なぜこの本のタイトルが『あなたはどれだけ幸福になれるのだろう』というタイトルなのか 実は、マイヤー氏は日本で言うワークホリック、言わば仕事に情熱を注ぐ人で、監督として生徒が成長する姿を一番の喜びと感じている監督でした。20089月、マイヤー氏が運転する乗用車とトラックが衝突事故。 緊急搬送されたマイヤー氏、そして家族・選手を待ち受けていたのは、左足の膝下を切断するという現実に。そして、手術中の担当医からマイヤー氏の肝臓に癌がある事が伝えられました。その事実を知ったマイヤー氏、そして彼を支える家族や友人達、そして何よりも監督として現場復帰したいというマイヤー氏の強い思いから最多記録を更新、事故後のマイヤー氏の変化等が細かく記されている一冊です。事故後の左足切断、そして癌の発見 事故が起きていなければ癌の発見が遅くなってしまうところでした。 マイヤー氏にとって、監督という立場にいれる喜び、そして選手の成長を見届ける事に最高の喜びを感じているのが本から伝わって来ます。

マイヤー氏が書かれた文章を紹介したいと思います。“You’re going to look at things differently. You’re going to get emotional. You’re going to cry a little more. You’re going to hug people, you’re going to want to say what’s important to people before they leave. Because you might never get a chance to say it.”  “物事を違った見方で見るようになり、少し感情的になり、そして少し泣いてしまうでしょう。見舞いに来る人を抱きしめ、そして皆が帰る前には大切な思いを伝えるでしょう。だって、もしかしたら二度とその思いを伝える機会がないかもしれないから…”

この文章を読んだ瞬間、肺癌で亡くなられた自分の恩師を思い出してしまいました。5年間、厳しく接してもらい、僕が自宅に伺った20078月から20103月に亡くなられるまでの2年間半の間にもう1度会いたかった。そしてお礼を言いたかった。そんな後悔の気持ちが蘇ってきました。恩師が亡くなられる1ヶ月前にメールでのやり取りが1度だけあり、僕の親への感謝の気持ちを汲んだ監督が『親に迷惑かけてばかりだったのに、ここまで立派に成長して…』と書かれていたのを思い出し、監督もマイヤー氏と同様に伝えたい気持ちがあったのだと、初めて思いました。 スポーツに情熱を注ぐ人達がスポーツ界を陰で支え、それを天職だと思い一生を全うする。僕たちがスポーツから力を貰えるという事は、それだけの人が力を注いでいるのだという事だと思います。

この履修したクラスで学んだ事の一つが『どれだけの人がスポーツに関わっているのか』でした。監督やチーム関係者だけでなく、いろんな形で関わっている人達の力でスポーツが『力』を持つ。そして、逆に社会にその力を還元していくのがスポーツのあるべき姿だと思いました。

もし機会があれば是非読んでみて頂きたい一冊です。 

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