2011年9月2日金曜日

兎と亀


Go on… I’ll catch up.

勉学、本、登山や映画の中でよく見聞する言葉、
Go on… I’ll catch up.”(先に行って、後で追い付くから。)

仲間に向かって先に行ってと言う理由は様々だろうが、
どれだけの人がその後に残った人間の孤軍奮闘ぶりに目がいくだろうか。



そこには、“おっ、やっと追い付いたか。”だけでは終われない、
皆の知らない苦労と言うものが必ずあるものだ。


上の写真を見て想像してもらいたい。
途方もない数の大きな階段。
始めは友達や家族と共に登りだしたはいいものの、
中には息が切れたり膝が痛くなったりする人も出てくるだろう。


もしそれがあなただったとしたら?


自分のペースに合わせて登る仲間に“Go on… I’ll catch up.
と言いきり一人になったところからの葛藤。

そう、その孤独な戦いこそが、

“海外留学”という言葉の本当の意味だと僕は思う。



人の苦労話ほど自慢話に聞こえるものはないが、
留学当初は誰もが、多かれ少なかれ自分との戦いを強いられる。
そして、必ずしも全ての人が階段を登り切り、
仲間に追いつけるわけではないのも事実。


現に、戦場で退却時に殿(しんがり)を務め、
信長に“Go on. I’ll catch up.”と言い放ち見事任務を果たし
無事生還した秀吉が昨今評価されているのも、
誰も知らないところでの彼の死に物狂いの努力と知恵があってこその結果である。


今学期からフィラデルフィアに位置するTemple Universityにて
解剖学を4クラス、124人を相手に教えることになった。
僕が大学時代に一番苦しみ、一番好きになったクラス。


僕も大学2年生の時に、授業中だけではラテン語の羅列のような
人体組織の名称などとても覚え切れるわけはなく、
幾度となく皆のペースから一人離されては追いつき、離されては追いつき。
そして1学期が終わった記憶がある。

1学期間にテストが8つという、
理系専攻者にとって避けては通れない鬼門であるがゆえであろう。


今日のクラスの中で、一人の生徒が困惑した顔をしていたので
Are you with me?”(ついてきてるかぁ~?)
と問いかけたところ、

Go on… I’ll catch up.
と返事したのを聞いて、どこか彼の姿が3年前の自分と重なって見えた。


後に残された、誰かを、そして何かを守るために残った人間。
留学生活中に必ずと言って対面する自分の真価。
なぜ自分はここで踏ん張っているのだろう。
どうしてここまで苦しい思いをしているのだろう。


それは、何よりも素晴らしい海外留学が自分に課した課題。


遅れたって構わない。その気になればいつでも追いつき追い越せる。
負けたって構わない。“今”の自分には勝てないだけだから。

人生はその為に何十年もあるのだから。



川田圭介
Temple University

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