2011年5月14日土曜日

選手マネジメント業務の1コマ~メジャーリーガーのための経費計上編

アメリカの確定申告期限である418日(例年は415日。詳細は過去エントリー「選手マネジメント業務の1コマ~アメリカにおける確定申告当日編!」をご参照下さい)から、早くも1ヶ月近くが経とうとしています。例年通り6ヶ月間の申告期限延長を行ったため、1017日(例年は1015日)の最終期限まで、MLB選手の確定申告に豊富な経験を持つ会計士様と打ち合わせを行いつつ、必要書類や領収書を収集する日々を過ごすことになります。


そこで今回のエントリーでは、「選手マネジメント業務の1コマ~メジャーリーガーのための経費計上編」と題しまして、MLB選手がアメリカで確定申告を行う際に、どのような項目を「経費」として計上することが出来るのかを解説させて頂きたいと思います。


いきなり結論から申し上げますと、MLB選手が「経費」として計上することが出来るのは、「野球選手としてプレイすることに直接関係のある項目」のみに限られています。例えば、以下のような項目が、確定申告時に「経費」として計上することが出来ます。

  1. パーソナルトレーナーの雇用費用
  2. オフシーズン期間中のトレーニング施設利用代
  3. 練習用具(メジャーリーグ公式球など)、及びトレーニング器具
  4. スプリングトレーニング期間中の宿泊代、及びレンタカー代
  5. エージェント手数料
  6. トレードに伴う引越し費用
  7. シーズン最終日に手渡す球団職員へのチップ代

ざっと考えてみてもこのくらいなのではないでしょうか。日本からMLBへと移籍したばかりの選手にとっては、日本プロ野球でプレイしていた時と比べて、「経費」として計上出来る項目が少ないため、戸惑うことも多いのは事実です。


例えば、日本では多くのプロ野球選手が個人の事務所を構え、家族を雇用し、給与を支払うことで、節税対策を講じているケースが多く見られます。しかし、アメリカで給与を上げている個人が日本に法人会社を持ち、この両者間で取引をすることで節税効果を狙った場合、「所得隠し」と見なされ、アメリカ国税局IRSInternal Revenue Service)から厳しい監査が入る可能性が非常に高くなります。つまり、多くの日本人MLB選手は、これまで日本時代に使ってきた節税対策をアメリカで転用することが難しいのです。


ただでさえアメリカでは、高給取りである有名アスリートや有名人は、IRSから「見せしめ」として目を付けられやすいこともあり(有名どころでは、New York YankeesのキャプテンDerek Jeter選手が2007年末にIRSの調査対象となり、タブロイド氏などで大きく取り上げられてしまいました。これは、Jeter選手が1年の大半を過ごすマンハッタンではなく、オフシーズンを過ごすタンパを納税の居住地として確定申告したことが原因です。フロリダ州は所得税を支払う義務がない州の1つであり、Jeter選手は恐らく専属の会計士からのアドバイスを基に、大幅な節税を狙ったものの、あえなくIRSの調査が入ってしまい、それが不幸にも公になってしまったというケースです。詳細は、過去エントリー「選手マネジメント業務の1コマ~海外銀行、及び証券口座申告編Part1」をご参照下さい)、選手には、日本の個人事務所にMLBでの給与を何らかの形で移転して、「売り上げ」として計上することには多大なリスクを伴うことをお伝えしています。日本の個人事務所の売り上げは、日本での契約スポーツメーカーやCM、雑誌、TV出演などのスポンサー収入のみに留め、その売り上げ内で個人事務所の経営を行うようにアドバイスさせて頂いております。


また、選手から良く聞かれる質問の1つとして、「洋服代は経費で落ちますか?」というものがあります。日本時代は、TV出演や雑誌の取材等の際に私服を着て行かれることがあり、「衣装代」として「経費」で落とすことが出来たという話を良く耳にします。しかし、アメリカの税務上のルールとして、あくまでも「経費」として計上出来るのは、「野球選手としてプレイするために必要な項目」という前提があるため、洋服代は「経費」として落とすことは出来ません。


このような例を見ても、MLB選手がアメリカでの確定申告時に経費として計上出来る項目は、「選手が野球選手としてプレイする上で必要なもの」という税務上のルールが存在しているため、日本プロ野球時代と比べて少なく、大幅な節税対策を講じることは難しくなります。日本からアメリカへと渡ってきたばかりの選手達にとっては、戸惑うことが多いことも確かです。だからこそ、私達マネジメントスタッフは、日米の税務ルールの違いを適切に選手とそのご家族へと説明し、その上でMLB選手の確定申告に豊富な経験を持つ会計士様と密に連絡を取り合い、ニュースになってしまうような危ない橋を決して渡らせずに、きちんとルールに則って最大限の節税対策が出来るようにアドバイスさせて頂いております。


私達は会計士の資格を持っているわけではありませんので、不明な点があれば勿論会計士様に尋ねますが、自らも進んでアメリカの確定申告に関する本を読み、知識を蓄えるように勉強を重ねています。勿論、最終的には会計士様の判断を仰ぐことになるのですが、選手から基本的な税務上のルールに関する質問を受けた際には、これまでに積み重ねてきた経験や、自ら積極的に学んできた知識を基に、しっかりと答えられる準備は出来ているつもりです。これも選手とご家族が異国の地アメリカにて、安心して暮らして頂く為に果たすことの出来るマネジメント会社の大切な役割だと考えています。


3月下旬に開幕したばかりだと思っていたMLBも気が付けば、早くも4分の1を消化しました。これまでの所、弊社所属選手は怪我もなく、順調なシーズンを送っています。レギュラーシーズン最終日まで、選手がフィールド上でのプレイに思う存分集中出来るように、これからもフィールド外でのサポートに全力で取り組んで行きたいと思っています。



ニューヨークスタッフ 三宮 伸也

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